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ロシア連邦のサハリンU石油・天然ガス開発事業と我が国の油防除体制に関する質問主意書(第156国会質問主意書第27号) 2003年5月19日 谷博之

参議院議員谷博之君提出ロシア連邦のサハリンU石油・天然ガス開発事業と我が国の油防除体制に関する質問に対する答弁書 2003年8月5日 内閣総理大臣 小泉純一郎
   ロシア連邦のサハリンU石油・天然ガス開発事業と我が国の油防除体制に関する質問主意書

 ロシア連邦のサハリンにおける大陸棚石油・天然ガス開発事業(以下「本件事業」という。)はTから\が計画されており、うちサハリンT石油・天然ガス開発事業(以下「サハリンT」という。)及びサハリンU石油・天然ガス開発事業(以下「サハリンU」という。)が既に進行中である。

 本件事業に対しては、サハリン内でも漁業への影響や自然環境への影響などを懸念する声があがっているが、地理的に近い我が国、特に北海道への影響も、漁業関係者、市民、専門家及びNGOの間で懸念されている。北海道の漁業は生産量、生産額ともに全国一を誇り、北海道経済において重要な役割を果たしている。

 野生生物に関しても、サハリンには、希少野生生物が数多く生息している。文化財保護法で天然記念物、種の保存法で国内希少野生動植物種に指定され、日露渡り鳥条約の保護指定種となっているオオワシは、本件事業が行われている北東部沿岸を営巣地とし、北海道で越冬していることが確認されている。サハリンを営巣地とし、日露渡り鳥条約の保護指定種となっている希少鳥類は、ほかにヘラシギ、カラフトアオアシシギ、シマフクロウなどがある。また、サハリンT及びUの海域は、国際自然保護連合(IUCN)によって絶滅危惧種の中でも最も危険度の高い「絶滅寸前」系統群とされ、生息数は百頭未満とされるニシコククジラの重要な採餌海域でもある。ニシコククジラはロシア政府によっても絶滅危惧種に、我が国水産庁や日本哺乳類学会でも絶滅危惧種に指定されており、国際的にも最も絶滅のおそれの高い大型鯨類の系統群の一つである。以上のことから、日本政府としては本件事業がサハリン及び地理的に近い我が国の環境社会に配慮されたものであるかを十分確認する責任があると考える。

 一方、サハリンT及びサハリンUはいずれも国際協力銀行(以下「JBIC」という。)の融資を受けており、サハリンTへの融資額は千百億円、サハリンU第一期工事への融資額は約百四十億円となっている。さらに、サハリンU第一期工事には、日本が第二の拠出国である欧州復興開発銀行(以下「EBRD」という。)からもJBICと同額の融資が行われている。

現在サハリンUは、海洋掘削施設の増設、八百キロメートルに及ぶ石油・ガスパイプラインの敷設、天然ガス液化処理施設や原油輸出ターミナルの建設を含む第二期工事に向けて準備が進んでおり、ロシア政府による事業承認や各機関の融資承諾などの準備が整い次第、今夏にも着工と言われている。これまでのJBICの本件事業へのかかわりから推測すると、サハリンU第二期工事への融資が要請される可能性は非常に高いと思われるが、更なる融資を行う場合は様々な影響を踏まえ慎重な検討が必要である。

JBICの「新環境・社会配慮ガイドライン」(以下「新ガイドライン」という。)は今年十月より施行されるが、昨年十二月四日の参議院災害対策特別委員会における私の質問に対し、サハリンU第二期工事への融資要請が今年十月以前になされても、新ガイドラインに沿った形での環境社会配慮を行っていく旨の政府答弁があった。我が国のエネルギー安全保障上、本件事業は極めて重要であるからこそ、環境及び社会面で十二分の配慮が求められているとの認識に立って、以下質問する。

一、JBICがサハリンU第二期工事に融資を行うに当たっての条件について

1    サハリン・エナジー社が第二期工事への準備として二〇〇二年九月に策定し、現在ロシア政府が審査中の「石油流出対応計画(Oil Spill Response Plan)」や「環境影響評価(EIA)」及び今年策定した「環境社会健康影響評価(ESHIA)」のうち我が国で懸念されている事柄に関する情報は、速やかに概要のみならず全面的に日本語に翻訳され、インターネットで事前に公開されることが求められるのではないか。

2    サハリンU第二期工事に関する利害関係者間の協議が、サハリン・エナジー社により公開された情報を評価、検証するための十分な時間が確保された上で、サハリン及び我が国の利害関係者の参加可能な形式及び言語で開催されるべきではないか。

4    右記一の2の協議において環境及び社会的影響への懸念が表明された場合、その懸念を解消するための事業計画の変更、あるいは対策について、融資決定前に、利害関係者の間で合意されるべきではないか。

(答弁) お尋ねの「サハリンU第二期工事」とは、サハリンUプロジェクトの第二段階開発計画であって原油及び天然ガスの採掘を行うもの(以下「本プロジェクト」という。)のための工事を指すものと解されるところ、本プロジェクトについては、国際協力銀行(以下「JBIC」という。)の「環境社会配慮確認のための国際協力銀行ガイドライン」(平成14年4月に策定され平成15年10月から施行されるもの。以下「新環境ガイドライン」という。)によれば、環境アセスメント報告書がロシアにおいてロシア語で公開され、地域住民などのステークホルダー(プロジェクトの影響を受ける地域住民、現地の非政府機関(NGO)等をいう。以下「地域住民等」という。)がいつでも閲覧可能であること等が必要であるとされていると承知している。

「石油流出対応計画(Oil Spill Response Plan)及び「環境社会健康影響評価(ESHIA)」については、本プロジェクトの実施主体であるサハリン・エナジー・インベストメント社(以下「サハリン・エナジー社」という。)がその概要を日本語に翻訳し、インターネット上で公開していると承知している。また、「石油流出対応計画(Oil Spill Response Plan)」等については、今後、それらの全文が日本語に翻訳され、インターネット上で公開されるか否かについて、現在のところ承知していない。

いずれにせよ、新環境ガイドラインにおいては、プロジェクトの実施主体が「検討する影響のスコープ」に「越境または地球規模の環境問題への影響」が含まれており、JBICが融資等を行うプロジェクトについては、それが計画されている国又は地域において社会的に適切な方法で合意が得られるよう十分な調整が図られていなければならず、また、特に環境に与える影響が大きいと考えられるものについては、情報が公開された上で、地域住民等との十分な協議を経た結果が当該プロジェクトの内容に反映されていることが必要であるとされていると承知している。JBICは、本プロジェクトに対する融資を検討する際、これらの情報公開や協議等の実施状況を含め、右のような影響を受ける利害関係者たる地域住民等と本プロジェクトの実施主体との協議結果の反映について、新環境ガイドラインを参照しつつ適切に対応するものと承知している。
3    現地での情報公開や右記一の2の協議においては、少数民族など政治的、経済的な弱者や、技術面での専門知識を欠く利害関係者が、効果的に参加できるよう十分な配慮がなされるべきではないか。
(答弁) 新環境ガイドラインにおいては、JBICが融資等を行うプロジェクトについては、社会的な弱者に対する適切な配慮がなされることが必要であるとされていると承知している。JBICは、本プロジェクトに対する融資を検討する際、本プロジェクトの実施主体が行う社会的な弱者等に対する配慮について、新環境ガイドラインを参照しつつ適切に対応するものと承知している。
5    サハリンU第二期工事は「特に影響が重大で異論の多いプロジェクト」であり、JBICが融資のための環境審査を行うに当たっては、日露両国の野生生物や油汚染対策など各分野の専門家による委員会を設置して意見を求め、十分な議論がなされることが必要ではないか。
(答弁) 新環境ガイドラインにおいては、JBICが融資等を行うプロジェクトのうち特に影響が重大と思われるもの及び異論の多いものについては、必要に応じ、プロジェクトの実施主体が専門家等からなる委員会を設置して意見を求めるものとされていると承知している。JBICは本プロジェクトに対する融資を検討する際、専門家等からなる委員会の設置等について、新環境ガイドラインを参照しつつ適切に対応するものと承知している。
二、サハリン及び我が国の環境及び水産資源の保護について

1    サハリン北東部におけるオオワシの現在の生息状況について、モスクワ大学と(社)北海道野生生物保護公社の共同調査では、同時期に行われたサハリンU第二期工事のための「環境影響評価(EIA)」における基礎データ調査より、けた違いに多いつがい数が確認されている。日露渡り鳥条約を遵守するためには、オオワシなどサハリンを重要な営巣地としている日露渡り鳥条約保護指定鳥類の保護対策を進める必要があるのではないか。

2    右記二の1の対策を進めるためには、まず、環境省が作成した希少猛禽類保護のマニュアル「猛禽類保護の進め方」に準じ、少なくとも二営巣期にわたる基礎データ調査を、サハリンU第二期工事開始以前に日露共同で行うべきではないか。
(答弁) 我が国とロシアは、渡り鳥及び絶滅の恐れのある鳥類並びにその生息環境の保護に関する日本国政府とソヴィエト社会主義共和国連邦政府との間の条約(昭和63年条約第7号。以下「日ロ渡り鳥等保護条約」という。)の附表にオオワシを掲げるとともに、日ロ渡り鳥等保護条約第2条に基づきその捕獲等を原則禁止とするなど、オオワシの保護を図っている。

我が国においては、昭和59年に、オオワシを、特殊鳥類の譲渡等の規制に関する法律(昭和47年法律第49号。以下「特殊鳥類法」という。)に基づく特殊鳥類に指定し、その譲渡及び輸出入を原則禁止とするとともに、日ロ渡り鳥等保護条約第3条2に基づき、このような保護措置を講じたことについて平成3年にロシア政府に対し通報したところである。また、平成4年の特殊鳥類法の廃止及び絶滅のおそれのある野生動植物の種の保存に関する法律(平成4年法律第75号)の制定に伴い、オオワシを同法に基づく国内希少野生動植物種に指定し、譲渡及び輸出入の原則禁止に加えて、捕獲及び殺傷並びに販売又は頒布を目的とした陳列を原則禁止とするなど規制の強化を図ったところである。

他方、サハリンを含むロシア国内におけるオオワシの保護については、日ロ渡り鳥等保護条約第6条に基づき、ロシア政府により、オオワシの生息環境の保全等のための措置を執るための努力がなされているものと認識している。
3    日本政府は、サハリンU第二期工事への融資を決定する前に、透明性と説明責任を確保し、各分野の専門家の参加を得て、野生生物保護のための十分な対策が採られていることを確認する必要があるのではないか。
(答弁)

新環境ガイドラインにおいては、JBICが融資などを行うプロジェクトについて、プロジェクトの実施主体が環境社会配慮を行う上で生態系及び生物相等を通じた自然環境への影響について調査検討することとされていると承知している。JBICは、本プロジェクトに対する融資を検討する際、本プロジェクトによる生態系に対する影響等について、新環境ガイドラインを参照しつつ適切に対応するものと承知している。

4    ニシコククジラの保護のためには、今年二月に、ロシアの天然資源省が固めた「ニシコククジラ採餌海域を来年より開発制限水域とする」方針の具体化を、ロシア政府に働きかけるべきではないか。
(答弁)

北太平洋西資源こく鯨(以下、「こく鯨」という。)については、国際捕鯨委員会により資源量が約百頭と推定され、極めて低い水準にあるため、現在、ロシア及び我が国においても、こく鯨の捕獲禁止措置が執られているところである。

なお、ロシア天然資源省によると、サハリンの油田開発予定地がこく鯨の夏の採餌海域と重なることから、現在、適切な保護措置を策定するため、ロシアの科学者による調査が実施されているところである。

我が国としては、御指摘の「開発制限水域」の問題は、基本的にロシア政府が対応すべきものと考えているが、今後、ロシア側から正式な要請があれば、調査研究面での協力を検討してまいりたい。

5    サハリンには活断層が多く存在し、一九九五年にも死者二千人を出したマグニチュード七・六の大地震が発生した。サハリンU第二期工事には、サハリンを南北に縦断する約八百キロメートルのガスと石油のパイプラインを約千本の川を横断して埋設する計画が含まれている。大地震などで石油パイプラインが破損した場合、大量の油が河川を汚染しながら下り、昨年北海道大学がその全貌を解明した東カラフト海流に乗って、北海道のオホーツク海沿岸に漂着し、周辺海域の漁業に影響を及ぼすことが懸念されるのではないか。
(答弁)

本プロジェクトにおいては、事業主体であるサハリン・エナジー社が油排出事故の発生に対応するために定めた「石油流出対応計画(Oil Spill Response Plan)」の中で、「陸上パイプライン」の事故に対応する計画が定められている。しかしながら、当該計画の策定に当たり実施された油流出シュミレーションの想定条件が十分に公開されていないため、現段階では、北海道の漁業への影響について判断することはできないが、今後とも本プロジェクトによる北海道の漁業への影響について注視してまいりたい。

6    二〇〇一年の漁業生産額は、網走支庁管内だけで四百二十億円に達する。本件事業に伴い原油輸送タンカーの往来が激増することが予想され、大規模な油流出事故が発生する可能性も高まるが、北海道の漁業へ甚大な被害を及ぼすような場合、補償額の上限が本年十一月以降でも約三百三十億円にすぎない国際油濁補償基金の補償だけでは不十分である。漁業被害に十分な補償がなされるよう、何らかの対策を講じているか。
(答弁)

近年における油排出事故の発生状況を踏まえて、1992年の油による汚染損害の補償のための国際基金の設立に関する国際条約(昭和53年条約第18号)等の改正により国際油濁補償基金の補償限度額の引上げが行われ、これに伴い、第156回通常国会において油濁損害賠償保障法の一部を改正する法律(平成15年法律第64号)が成立したところであり、政府としては、油タンカーによる油排出事故に対しては十分な補償がなされるものと考えている。

また、北海道沖で大規模な油排出事故が発生した場合は、「油汚染事件への準備及び対応のための国家的な緊急時計画」(平成9年12月19日閣議決定。以下「国家緊急時計画」という。)に基づき、関係省庁及び関係機関が協力して排出油防除措置を講ずることとしており、可能な限り漁業への被害の防止を図るよう努めてまいりたい。

7    サハリン・エナジー社が二〇〇二年九月に策定した「石油流出対応計画(Oil Spill Response Plan)」には、結氷時や干潟等の水深の浅い海域等においても油処理剤(分散剤)の大量使用を前提とした対応が記されている。しかし分散剤の使用は、稚魚の発生阻害等、海中の生態系に重大な影響をもたらすことが知られており、イギリス等では水深二十メートル以下の海域では原則使用が禁止されている。結氷時や水深の浅い海域での分散剤の大量使用は、北海道の漁業資源保護の面から容認できないのではないか。
(答弁)

サハリン・エナジー社によれば、干潟のような浅い海面での油処理剤の使用を意図したものではないが、適切な条件下、適切な場所での使用は迅速な処理のため有用な手段と考えており、重要な環境資源を保護するため、環境に大きな影響を与えないと判断される場合及び場所において使用されるべきというものであるとしている。また、サハリン・エナジー社は、より適切な油処理剤の使用基準の明確化についてロシア政府及び関係機関との協議を進めているとしている。

8    サハリン沖で今後サハリンVから\の開発が次々と進行した場合、北海道の漁業への影響について、どのように分析しているのか。
(答弁) 現在のところ、御指摘の「サハリンVからT]の開発」の具体的な計画が策定されていないため、北海道への漁業の影響について分析することはできない。

三、我が国の油防除体制の強化について

1    サハリン・エナジー社は、第二期工事の準備として二〇〇二年九月に「石油流出対応計画(Oil Spill Response Plan)」を策定する際、油流出シミュレーションを行っている。その結果は、サハリン北東部沖及びアニワ湾のいずれの油流出も三日以内に回収可能であり、北海道への影響はないとのことだが、海流や風向き、流出油量などシミュレーションの想定条件を一切公開していない以上、その結果には説得力がない。我が国として、想定条件を含むこのシミュレーションの内容を早急に入手し、本当に北海道への影響が皆無なのか、検証すべきではないか。

2    サハリン・エナジー社の二〇〇一年までの「緊急時計画(Oil Spill Contingency Plan)」及び二〇〇二年九月の「石油流出対応計画(Oil Spill Response Plan)」の策定及び改定の過程において、我が国の利害関係者の関与は全くない。我が国への影響に対する懸念及び我が国の協力の必要性を考慮した場合、今後の油流出対応計画の策定及び改定においては、我が国の漁業関係者や野生生物研究者、油防除専門家などの関与を求めていくべきではないか。

(答弁) サハリン・エナジー社は、「石油流出対応計画(Oil Spill Response Plan)」の策定に当たって、油排出事故が発生した場合の油流出シュミレーションを実施している。しかしながら、二の5についてで述べたとおり、当該シュミレーションの想定条件が十分に公開されていないため、現段階では、北海道への影響について判断することはできないが、今後とも本プロジェクトによる北海道への影響について注視してまいりたい。なお、我が国政府は、国外で実施されている本プロジェクトについて、直接我が国の漁業関係者等の関与を求め得る立場にはない。
3    迅速で機動的な対応が可能とされる米国、韓国及びノルウェーの油防除体制において、海域及び陸域での各関係機関の役割や指揮系統が具体的にどのようになっているか示されたい。
(答弁) アメリカ合衆国、大韓民国及びノルウェー王国の排出油防除体制における海域及び陸域での各関係機関の役割及び指揮系統については、別表のとおりである。

なおいずれの国においても、油排出事故が発生した場合に防除措置を講ずる一義的な義務を負う者は、国、関係機関等ではなく、当該事故の原因者である船舶所有者等としている。
(別表)
国名 関係機関の役割 指揮系統
アメリカ合衆国 海域にあっては沿岸警備隊が中心となって、陸域にあっては環境保護庁及び地方政府が中心となって、それぞれ排出油防除措置を担当する。大規模な事故の場合は、地域対応チームが対応し、それによっても困難な場合は、国による国家対応チームが対応する。 油排出事故の発生場所等を考慮し、沿岸警備隊又は環境保護庁のいずれかより選出された連邦現場調整官一名が、陸域及び海域に係る排出油防除措置の指揮をとる。
大韓民国 海域にあっては海洋警察庁が中心となって、陸域にあっては海岸を管轄する自治体(港湾施設を有する海岸にあっては、当該海岸を管轄する自治体及び当該港湾施設を管轄する海洋水産部又は自治体)が中心となって、それぞれ排出油防除措置を担当する。大規模な事故の場合は、災害管理法に基づく中央事故対策本部が設置され、国が対応する。 海域にあっては海洋警察庁長官の指定する職員が、陸域にあっては自治体の長(港湾施設を有する海岸にあっては、当該港湾施設を管轄する海洋水産部長又は自治体の長)が、それぞれ排出油防除措置の指揮をとる。大規模な事故の場合は、中央事故対策本部の長である海洋水産部長官が陸域及び海域に係る排出油防除措置の指揮をとる。
ノルウエー王国 油掘削施設、製油所等にあっては石油会社により設立された民間防除機関が、海岸、陸上及び港内等の閉塞している区域にあっては自治体が、それぞれ排出油防除措置を担当する。大規模な事故であって民間防除機関や自治体では対応が困難な場合は、国が対応する。 漁業省沿岸管理庁危機管理対応部長が指定する職員が陸域及び海域に係る排出油防除措置の指揮をとる。大規模な事故の場合は、同部長自らが指揮をとる。
4    米国や韓国の油防除体制では、「現場指揮官(On-Scene Coordinator)」に対応権限を集中させることを定めている。一九九七年十二月に閣議決定された、油汚染事件への準備及び対応のための国家的な緊急時計画(以下「国家緊急時計画」という。)によると、海域では海上保安庁、陸域では大規模流出の場合は非常災害現地対策本部長の国土交通副大臣がその任に当たることとなっている。また所管官庁が複雑に分かれている沿岸域では「関係機関の連携」により防除作業を行うこととなっているが、より迅速な対応のためには、我が国においても海域、陸域共にカバーする統一的な指揮系統による防除体制を構築すべきではないか。
(答弁)

我が国における大規模な油排出事故の発生時の対応については、災害対策基本法(昭和36年法律第223号。以下「災対法」という。)に基づき、収集された情報から大規模な被害が発生していると認められたときは、ただちに国土交通大臣を本部長とする非常災害対策本部(以下「対策本部」という。)を設置するとともに、必要に応じて、国土交通副大臣を本部長とする非常災害現地対策本部(以下「現地対策本部」という。)を設置することとしている。

対策本部及び現地対策本部(以下「対策本部等」という。)は、災対法に基づき、所管区域において指定行政機関の長、指定地方行政機関の長、地方公共団体の長その他の執行機関等がそれぞれの防災計画に基づき実施する災害応急対策の総合調整を行うとともに、対策本部等の長は、必要な限度において、指定地方行政機関の長等に対し、必要な指示をすることとされていることから、対策本部等の総合調整の下、海域、陸域共に統一的な排出油防除措置が行われる体制となっている。

なお、国家緊急時計画は、油による汚染に係る準備及び対応に関する我が国の体制を体系的に取りまとめた計画であり、対策本部の設置等についても位置付けているところである。

5    我が国がEBRDを通じ支援しているトルクメニスタンの油流出に関する国家緊急時対応計画(National Oil Spill Contingency Plan)の策定過程においては、環境関連機関や地元自治体等、広範な意見を反映させるとしている。ところが我が国の国家緊急時計画の策定過程においてはトルクメニスタンのような広範な意見の反映は一切行われていない。そのような透明性と説明責任を確保した手続を踏んで、国家緊急時計画を改定すべきではないか。
(答弁) 国家緊急時計画は、1990年の油による汚染に係る準備、対応及び協力に関する国際条約(平成7年条約第20号。以下「OPRC条約」という。)に基づき策定されたものであるところ、OPRC条約においては、国家緊急時計画の策定に当たり、御指摘のような「環境関係機関や地元自治体等」の広範な意見を反映させることまでは求められていない。

国家緊急時計画は、災対法に基づき地方公共団体が作成する地域防災計画と調和を保ったものであり、かつ、関係省庁等は、油排出事故が発生した場合における環境影響調査、野生生物の保護、漁場の保全その他の対応措置が迅速かつ的確に行われるよう、各行政分野における体制の整備に努めるとともに、地方公共団体、関係団体等との連絡協力体制の確保に努めることとしていることから、御指摘のような国家緊急時計画の改定の必要はないと考えている。
6    米国や韓国の油防除計画は、事故発生時の流出量により対応が規定されており、これが迅速な対応を可能にしている理由の一つと考える。サハリンU第二期工事で建設が予定されている海上タンカー積込み施設(TLU)において原油を積載した九万トン程度のタンカーが、宗谷岬付近を航行中に事故を起こし、@全量、A一万トン程度、B一千トン程度、C五百トン程度の油を流出させた場合、国家緊急時計画などの規定に基づき、それぞれの対応にどのような違いがあるのか。
(答弁) 油排出事故が発生した場合の対応については、排出された油の量だけではなく、事故現場の地勢的特徴、気象及び海象の状況等様々な条件を考慮する必要があり、お尋ねのように排出された油の量のみよってその対応を一概に決定することはできない。

なお、アメリカ合衆国や大韓民国においても、事故現場の地勢的特徴、排出された油の種類等に応じてその対応が異なる場合もあるものと承知している。
7    我が国の国家緊急時計画では、米国や韓国のように油の流出量による対応を規定しておらず、「大規模な被害が認められたとき」に初めて国レベルでの非常災害対策本部を設置することになっている。これでは被害の規模が明らかになるまでに時間を要するため、迅速な対応ができないのではないか。
(答弁)

油排出事故が発生した場合には、ただちに海上保安庁の巡視船艇、航空機等により調査を行い、排出油防除措置を講ずるとともに、関係機関等への情報の伝達も速やかに実施していることから、対策本部等の設置の有無にかかわらず、事故発生時の迅速な対応は確保されているものと考えている。

8    米国や韓国においては「緊急時対応計画(Contingency Plan)」の地域版までが作成され、油防除活動の基礎情報となる地域の海岸特性や野生生物の生息状況を記載した環境脆弱性指標地図(以下「ESI地図」という。)が準備されている。我が国では海上保安庁等において同様の情報図が作成若しくは準備段階にあると聞いているが、この情報図をどのように海域ごとの「排出油防除計画」及び各自治体「地域防災計画」に位置付け、実際の防除活動に活用しようとしているのか。
(答弁)

海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律(昭和45年法律第136号。以下「海防法」という。)第43条の2に基づき海上保安庁長官が作成する排出油防除計画(以下「排出油防除計画」という。)においては、既に、沿岸地域の環境保全のための情報を参考に適切な排出油防除の方針を確立することとしているところ、現在、海上保安庁において関係省庁等と連携を取りつつ作成している環境脆弱性指標地図が完成次第、順次これを右の環境保全のための情報として排出油防除対応の方針の策定に反映していくこととしている。また、地方公共団体が作成する地域防除計画においても当該地図の活用が図られるよう努めてまいりたい。

なお、当該地図については、平成18年度までに全国の海岸線を網羅することができるよう順次整備を進めているところである。

9    海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律第四十三条の三が定める「排出油防除協議会」は、関係省庁や自治体だけではなく、漁業関係者、野生生物研究者、油防除の専門家、市民団体、NGOなどの関係者の参加を得て、ESI地図の活用を含む具体的な防除体制について、十分な透明性と説明責任を確保した継続的な協議を行う場となるよう、改善を図るべきでないか。
(答弁)

海防法第43条の3に基づく排出油の防除に関する協議会は、関係者が相互に密接な連携の下、共同して排出油防除措置を講ずることができるよう組織するものであり、当該協議会には、海上保安庁、関係行政機関、関係地方公共団体のみならず、タンカーの所有者、海洋施設等の設置者、港湾管理者、漁業者団体、民間防災事業者、油防除資機材メーカー等排出油防除措置の実施に関係する主体が幅広く参加しており、有効に機能しているものと考えている。

10 陸域で回収される漂着油の最終的な処分方法について、現在どのように規定されているか。
(答弁) 油排出事故が発生し、陸地に漂着した油が回収された場合には、当該油は、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和45年法律第137号)第2条第4項又は第5項に規定する産業廃棄物又は特別管理産業廃棄物である廃油に該当するところ、その処分は、同法第12条又は第12条の2において、廃棄物の処理及び清掃に関する法律施行令(昭和46年政令第300号)第6条1項第2号若しくは第3号又は第6条の5第1項第2号若しくは第3号に定める基準に従わなければならない旨規定されている。
11 海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律第四十二条の三十六に規定されている、事故船舶の所有者らの委託による二号業務では保険会社による防除方法の指定など予算上の制限があるので、大規模な油流出事故が発生した場合、海上保安庁長官が海上災害防止センターに対して指示する一号を積極的に適用して業務を行うことが必要である。そのために、一号と二号の適用基準を明確に定めるべきではないか。
(答弁)

海防法第42条の36第1項第2号に基づき海上災害防止センター(以下「センター」という。)が実施する業務は、原因者である船舶所有者等とセンターとの契約に基づく排出油防除措置であるが、御指摘の原因者側の予算上の制限に関わらず、当該措置では不十分と判断される場合には、海防法第39条第3項に基づき、海上保安庁長官が、船舶所有者等の原因者に対して排出油の防除のための有効かつ適切な措置を講ずるよう命ずることができることとされ、原因者が当該命令により講ずべき措置を講じていない等の場合は、海防法第42条の37に基づき、海上保安庁長官が当該措置のうち必要と認めるものを講ずべきことをセンターに対し指示することができることとされている。センターが行う海防法第42条の36第1項第1号の業務は、当該指示を受けて実施するものであり、これまでも緊急に排出油防除措置を行う必要があると認められる場合には、当該指示が行われているところである。

なお、当該指示については、排出された油の種類、事故現場の地勢的特徴、気象及び海象の状況並びに社会的影響の程度を考慮の上、判断することとしており、当該指示を行うかどうかについての一律の基準を策定することは困難である。

12 我が国の油防除体制を米国や韓国並のレベルに引き上げるためには、海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律の抜本的な改正を検討すべきではないか。
(答弁)

我が国の排出油防除体制は、海防法、災対法、国家緊急時計画等により既にOPRC条約が求める以上のものとして構築されており、アメリカ合衆国や大韓民国における排出油防除体制に比べて劣るものではなく、御指摘の海防法の抜本的な改正を行う必要はないと考えている。

13 総務省行政評価局が今年四月に策定した「海上災害対策に関する行政評価・監視結果に基づく勧告―油等流出事故災害を中心として―」は、沿岸海域を有する五十五市町村を調査したところ四十一市町村が当該海域の排出油防除計画を承知していなかったと報告している。それぞれの計画策定に当たり、これまで「排出油防除計画」と「地域防災計画」とはどのように関連させてきたのか。
(答弁) 海防法第43条の2第3項においては、海上保安庁長官は、排出油防除計画を作成し、又は修正しようとするときは、関係地方公共団体の長の意見を聴かなければならないこととされているとともに、災対法第15条第5項においては、都道府県地域防災計画の作成を行う都道府県防災会議の委員となる指定地方行政機関の長として管区海上保安本部の長等が充てられており、排出油防除計画と都道府県地域防災計画は、相互に関連付けられるよう取組が行われてきたところである。

また、災対法第42条第1項に規定するとおり、市町村地域防災計画は、当該市町村を包括する都道府県の都道府県地域防災計画に抵触するものであってはならないこととされており、排出油防除計画と市町村地域防災計画についても相互に関連付けられているところである。

14 「排出油防除計画」と「地域防災計画」との十分な関連性がない場合、海域と陸域での対応がバラバラとなって現場が混乱し、一致協力した適切な対応は不可能だと考える。「排出油防除計画」と「地域防災計画」を相互に関連させるための改定、あるいは海域と陸域の対応を統括する新たな油防除計画を策定すべきではないか。

(答弁) 三の13についてで述べたとおり、排出油防除計画と地域防災計画は相互に関連付けられるよう取組が行われてきたところであり、御指摘のような「新たな油防除計画」を策定する必要はないと考えているが、引き続き、両計画の連携の強化を図っていく所存である。

質問主意書とは?

国会議員は、会期中、文書により国政一般について内閣に質問することができます。議長が承認した質問主意書は、次の月曜日か水曜日に内閣に転送され、その日から7日以内に内閣は答弁書を作成し、送付しなければなりません。また質問主意書及び答弁書は全議員に配布し、本会議録や参議院HPにも掲載されます。


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